2018年12月27日 更新
上場会社の場合、中期経営計画は投資家向けに「自社は将来このような企業を目指す」と宣言する資料です。投資家たちは、中期経営計画をもとに投資の判断を行います。中小企業向けの中期経営計画とは多少目的が異なりますが、上場企業の中期経営計画には参考になる点も多々あります。
今回は昭和電工を参考に中期経営計画のポイントをみていきましょう。
ちなみに、この昭和電工の中期経営計画。本当に良くできています。
筆者が2018年にみたなかでは一番かなと。
Contents
まずは表紙です。
上場会社は多くが「3年間」で作成しています。たまに「4年間」や「5年間」の計画をみることもありますが、稀でしょう。あまり長い期間に設定してしまうと、外部環境の変化に対応できなくなってしまうためです。
昭和電工の表紙をみると「2019年-2021年」とありますね。
昭和電工株式会社「中期経営計画(2018)」表紙
中計の発表時期は、計画期間に入る直前であることが多いでしょう。
昭和電工の場合、12月決算なので、翌1月から新年度が始まります。そのため、12月11日に発表しています。
中計にキャッチコピーを付けることもあります。
昭和電工でしたら”The TOP 2021″の部分です。
キャッチコピーから中計の想いが伝わってきますね。
昭和電工株式会社「中期経営計画(2018)」表紙
表紙をめくると、一般的には前中計の振り返りが入ります。内容は、前回の中計(3年前の計画)の達成度です。
よく書かれるのは、数値目標の達成率と経営戦略の達成率ですね。
中小企業が銀行提出用などに中計を作成する場合はこの項目は不要です。一方、株主や従業員、取引相手などに定期的に発表している場合は作成するほうが良いでしょう。作成すれば、しっかりPDCAが回せているなという印象を与えることができます。
前回の中計で記載した目標売上・目標利益(予算)と実際に達成した売上等(実績)を比較するのが一般的です。
昭和電工では、少しイレギュラーですが、前々回期間の数値と前回期間の数値を比較しています。
昭和電工株式会社「中期経営計画(2018)」P5
ちなみに、昭和電工の前回の中計(3年前の計画)では、予実を比較しています。
繰り返しになりますが、このように書くのが一般的です。
昭和電工株式会社「中期経営計画(2015)」P4
また、前回の中計で記載した個別事業目標の達成度も振り返ります。
ただし、細かく振り返る必要はありません。過去のことですので、端的に記載できれば充分でしょう。
昭和電工では1ページにまとめています。
昭和電工株式会社「中期経営計画(2018)」P6。「事業の加速化」「CAGR6%の堅調な売上成長」などの部分が達成率を表している。
色々と前置きが長くなってしまいましたが、ここから中計の内容についてみていきます。
中計を策定するうえで、経営理念は欠かせません。
中計は3~5年の計画ですが、その土台となるのはやはり経営理念(不変的なもの)であるためです。
昭和電工株式会社「中期経営計画(2018)」P3
中計は3~5年の計画です。しかし、会社はそれ以降も当然事業を続けていきます。
そこで、長期的にどのような姿を目指すかを示すこともあります。長期的とは5~10年くらいのイメージです。
昭和電工では『2025年には半数以上を個性派事業へ』と掲げています。
ただし、この項目は決めていなければ記載する必要はないでしょう。
昭和電工株式会社「中期経営計画(2018)」P9。中計の期間は2019~2021年であるが、2025年のあるべき姿が記載されている。
ここからが、中計の本題です。
最初に書くべき項目は中期的に目指す姿です。
昭和電工では本中計を『成長基盤を確立する中計』と位置づけています。
昭和電工株式会社「中期経営計画(2018)」P7
経営方針は中計のコアとなる箇所です。
具体的には、前項の中期的に目指す姿をどのような方法で達成していくかを記載します。
ちなみに、中期的に目指す姿を記載せずに、経営方針にまとめてしまうことも良くありますね。
昭和電工株式会社「中期経営計画(2018)」P11。「グループ戦略の柱」「事業基盤強化」「企業責任」の箇所が経営戦略を表している。
また、経営方針を策定する際に勘案した外部環境なども資料として含めることもあります。
昭和電工株式会社「中期経営計画(2018)」P8。詳細な経営環境は、Appendix(付録)に掲載されている。
ワンポイントアドバイス
経営方針の立案方法はいくつかの方法論がありますが、ゼロから考えるのは大変ですね。
そこで、よく使われるのが経営理論を使って立案する方法です。
ここでは、2つの立案方法を紹介しましょう。
1. クロスSWOT分析を使って経営方針を決める
もっとも良く使われるのが、クロスSWOT分析を使って経営方針を決める方法です。
SWOT分析の「機会(O)」と「強み(S)」を使い、「当社を取り巻く経営環境をみると、○○といったビジネスチャンスがあるため、当社の△△という強みを使い、このビジネスチャンスを獲得する」と決めていきます
中小企業の場合は、特にこの方法を使う場合が多いでしょう。
2. PPM理論を使って経営方針を決める
大企業の場合、いくつもの事業を展開しています。この場合、どの事業を残し、どの事業から撤退するのかを決めていくことがずばり経営方針となります。
このとき良く使われるのがPPM理論です。金のなる木で稼いだ資金を、問題児や花形に振り分ける方法ですね。
イマサラ聞けないの記事「プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)」よりお借りしました。
昭和電工でもPPM理論をベースに経営方針を立案しています。
ただ、経営理論どおりの用語を使うのではなく、「金のなる木=高める」「花形・問題児=伸ばす」「負け犬=変わる」のように自社の用語に置き換えていますね。これは素晴らしい!
昭和電工株式会社「中期経営計画(2018)」P17
経営戦略とは、経営方針を達成するために、どのように活動していくかを示したものです。個別戦略とも呼ばれます。経営方針を達成するために事業ごとにどのように活動をしていくかを記載します。
昭和電工株式会社「中期経営計画(2018)」P19
上図は、事業戦略について目標や戦略といった、ざっくりとした内容だけ記載されています。ただし、この裏には個別の事業について、具体的に何を実行するのかという内容が隠されています。実際は、事業ごとに販売戦略、組織戦略、設備戦略、財務戦略などが作成されることが一般的です。
これらを作ったうえで、中計の用途を鑑みて、どの部分を資料として出すかを決めていきます。
中計を実行した結果、どれくらいの売上・利益が得られるかを記述します。
数値計画を立てるうえでのポイントは、その数値が「コミットメント」なのか「努力目標」なのかという点です。中計発表会などでは質問コーナーで必ずといって良いほど質問されるでしょう。
昭和電工株式会社「中期経営計画(2018)」P18
付録資料を示します。
よく記載されるのは、各事業の市場規模の予想や数値計画の根拠となるセグメント別数値計画でしょうか。
もちろん、中計のなかにこれらの資料を含めても良いですが、なんでもかんでも中計に含めると要点が伝わらなくなってしまうので、最後に付録としてまとめることが多いです。
昭和電工株式会社「中期経営計画(2018)」P36
中計に掲載した方が良い内容は以上です。今回は、最低限の内容だけピックアップしてみました。
3~5年なんて経営環境が変わっているので中計なんて必要ない!という声もありますが、これを作らなければ、経営の意思決定ごとに場当たり的な判断をくださなければいけなくなります。また、働いている従業員も、会社の将来がみえないとモチベーションが下がってしまうことでしょう。
経営環境が変わるのであれば、中計の見直し(ローリング)を入れれば良いのです。
まずは、簡単でも良いので作ってみてはいかがでしょうか。