『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)で有名になった心理学者、アルフレッド・アドラーの言葉にこんな一節があります。
人は誰しも一人では生きられない
日々の生活の中で、様々な人々との協力や競争があってこそ、人は生きていける、というアドラーの想いの感じられる一節です。
このことは実は、企業にも同じことが言えるのです。いや、企業こそ、様々な関係と、そこから生じる競争要因から受ける影響が一層大きいと言えるでしょう。
今回は企業にとっての「人間関係分析」とも言える、「ファイブフォース分析」について解説していきます。
ファイブフォース分析では、自社の属する業界内での関係性を明らかにし、それらがどのように作用し、自社の経営に影響を与えるのかを分析します。
人間関係においては学校、職場、家庭、友達…と無数の関係性が考えられますが、ファイブフォース分析では図表のように、5つの競争要因との関係を分析します。
出典:M.E.ポーター 土岐 坤 / 服部 照夫 / 中辻 万治訳『新訂競争の戦略』ダイヤモンド社 p.18 一部修正
まず、自社商品を購入する買い手の交渉力を分析します。買い手とは我々顧客のことを指します。我々顧客の価格交渉力が高いと、企業は価格を下げざるを得ない、ということになります。
次に、自社商品を製造するために必要な部品などを販売する供給業者との力関係を明らかにすることで、コスト面での交渉力を測ります。
これらはわかりやすいですね。新規参入企業や代替品といった外部の競争業者の脅威の度合い、既存の競争業者との敵対関係の度合いを測定します。
こうした競争要因との関係性を分析することで、その企業の業界における収益構造を明らかにすることができるのです。
それでは、それらの競争要因とは具体的にどういったものなのでしょうか?
ここからは、時価総額世界一の企業であるAppleを例に見ていきましょう。
まず、買い手の交渉力について分析してみましょう。
Appleにとって買い手の交渉力は高いのでしょうか? 低いのでしょうか?
ご存知Appleの主力製品であるiPhone。10周年記念モデルのiPhone Xが発表され、その強気とも言える価格が話題になりました
Appleはそのブランド力によって、買い手の交渉力を弱めることに成功しています。たしかに高くても買っちゃいますよね。
そのため価格を高く維持することが可能となり、Appleは高い収益性を実現しています。
iPhoneを作るときには、様々な部品をApple側が購入する必要があります。
その際にAppleへ部品を売る「売り手」に価格交渉力があるのかどうかを分析します。
スマートフォンに絶対必要な液晶パネルをAppleへ販売しているジャパンディスプレイ。新型iPhoneの発表がある度にその苦境が報じられています。
今や液晶パネルは有機ELディスプレイといった新技術の登場や、中国におけるより低コストな生産により、競争が激化しています。
Appleにとって液晶パネル調達の選択肢は多く、売り手であるジャパンディスプレイは価格を下げてでもAppleに買って貰わなくてはいけません。
その意味で、Appleは、ジャパンディスプレイを始めとする売り手の交渉力を下げていると言えます。
新しい企業が自社の事業領域に参入してくる可能性の分析も重要です。
Appleは現在、この新規参入の脅威に晒されつつあると言えます。
中国企業であるシャオミは2010年の創業からわずか7年ほどで世界有数のスマートフォンメーカーとなりました。
スマートフォンを製造する技術が成熟し、その量産のハードルが低くなってくるとともに、この新規参入の脅威は高まっていくといえるでしょう。
パソコンや旧式の携帯電話(ガラケー)の代替品としてスマートフォンが登場しその市場を奪ったのと同じように、代替品の登場により一気にその市場自体が消滅もしくは衰退するという脅威を分析する必要があります。
「スマホの次」として、AIスピーカーがにわかに注目を集めつつあります。
日進月歩に技術革新が起こる時代にあって、代替品の登場による市場の急速な縮小という脅威については常に考えておく必要があるでしょう。
スマートフォン市場におけるAppleの永遠のライバルといえば韓国サムスン電子ですが、いま新たなライバルとして中国ファーウェイが世界シェアでAppleを抜き去り、新時代の幕開けを予感させます。
このように、世界一の企業であれ、中小企業であれ、企業を取り巻く競争環境からは大きな影響を受けるということがわかります。
ファイブフォース分析を活用することで、自社取り巻く環境を網羅的に分析することができます。ぜひ、一度、自社の分析をしてみてください!