伝説上の生き物として名高い「ユニコーン」。その名を冠した「ユニコーン企業」が話題です。
「ユニコーン企業」とは、企業価値10億ドル(約1,100億円)以上、かつ創業10年以下であり、未上場であるという基準を満たした企業のことを指します。
日本の産業界においても、長らくこのユニコーン企業はいわゆる「伝説の生き物」でした。
ユニコーン企業として名を挙げる企業の多くはアメリカ、そして近年では中国なども増えてきており、日本で「ユニコーン」は多く生まれていません。
かつてのソニーやホンダといった戦後を代表するベンチャー企業は、「ユニコーン企業」という言葉が当時あったとしたら、日本の誇るユニコーン企業となっていたことでしょう。そう考えると、少し寂しいですね。
そんな中、ようやくユニコーン企業と呼ばれ得る企業も日本に出てきました。それが「メルカリ」です。
メルカリは個人間取引をアプリで行うフリーマーケットアプリとして、日本のみならず、アメリカでも浸透してきています。
そんなメルカリ、企業価値1,100億円以上と言うのですから、その利益もきっとものすごいのだろう……と思いきや、そのメルカリの2016年度の利益は約30億円に過ぎませんでした。
では、ユニコーン企業たる「企業価値1,100億円」という根拠はどこから出ているのでしょうか? メルカリのどこに1,100億円にものぼる価値が眠っているのでしょうか?
今回は、代表的な企業価値の算定方法を見ながら、その根拠を探っていきましょう。
時価総額の算定方法に「バランスシート・アプローチ」と呼ばれる手法があります。
これは会社のバランスシート(貸借対照表)にある資産の部を時価換算し、それら全て売り払って現金にし、それで負債を全額返済したと仮定したときに、残った金額をその企業の価値にしよう、というアプローチのことです。
さて、いまメルカリの全ての資産を清算したら、果たして1,100億円を超える現金を得ることはできるでしょうか?
メルカリはバランスシートを下記のように公表しています。
出典:官報。純資産は131億円、利益は30億円である。
これを見ると、メルカリの資産は約290億円、負債は約160億円あることがわかりますね。
バランスシート・アプローチに基づくと、メルカリの企業価値は約130億円しかありません。1,100億円の約10分の1程度の価値といえます。
つまり、ユニコーン企業たる根拠はバランスシート・アプローチにはないようです。
二つ目の手法が、競合企業や類似の事業を営む企業を基準として企業価値を算出する方法です。
では、メルカリの競合企業や類似の事業を営む企業はどのような企業なのでしょうか?
メルカリのように消費者同士の経済活動を助けるフリーマーケットアプリとして挙げられるのが、女性向けファッションのフリーマーケットとして台頭した「フリル」やハンドメイド製品のフリーマーケットとして特化した「ミンネ」といったサービスです。
しかしこれらのサービス、ダウンロード数1800万以上を誇るメルカリに対してそれぞれ400万ダウンロードほどの規模に過ぎません。
それ以外の競合にしても、楽天やヤフーといった大企業のイチ事業であったりと、正確な基準値をもたらしてくれそうもありません。
そうなると、このアプローチも違うみたいです。
最後に紹介するのが、将来の儲けを現在の価値に割り戻した金額を基に算出する「インカム・アプローチ」です。
将来メルカリが1,100億円以上儲けるという確証があれば、それだけの価値があるという根拠としてもいいのでは? という考え方ですね。
さて、メルカリの2016年度の利益額は先程見たとおり30億円ほどでした。1,100億円ものキャッシュを生むのは単純計算で37年ほどかかります。
しかしメルカリは創業してまだ5年弱。それで利益が30億円なのですから、これからまだまだ利益が伸びていくという「期待」こそがその根底にあるのは確かですね。
とはいうものの、このままメルカリが右肩上がりで売上と利益を伸ばし続けるという確証はどこにもありません。
それでもメルカリが「ユニコーン企業」ともてはやされるのも、ひとえにその経営計画や事業展望に強い期待が込められているからといえるでしょう。
投資家や社会が評価する「経営計画」には創業者の力量、従業員のチームワーク、主戦場としているマーケットの魅力とった、定量的に測れないものが書かれています。
そうした目に見えない価値にこそ、メルカリが1,100億円という価値の根拠が詰まっているといえます。
このように、「経営計画そのものが企業価値になる」ことが、「ユニコーンブーム」の裏側から読み取ることができそうです。