蜘蛛の糸といえば、蜘蛛が獲物を捕獲するために作る蜘蛛の巣に使われるものです。蜘蛛の糸はとても丈夫であり、その強度は鋼鉄以上であるといわれています。また、熱にも強く、伸縮性も高いため最強の糸と評されることも。
この蜘蛛の糸を人工的に作り出すことに成功した会社があります。蜘蛛の糸のこれからに焦点を当てて紹介します。
映画のヒーローであるスパイダーマン。蜘蛛の糸を使いビルからビルに飛び移っている姿が印象的です。さらに、蜘蛛の糸を使って、車や鉄骨などの重量物も蜘蛛の糸で吊り上げたり、引っ張ったりしています。このスパイダーマンの映像が、空想上のものではなく現実に可能だとしたら…すごいことですよね。
実は、スパイダーマンの映像はあながち空想とは言い切れないのです。実際の蜘蛛の糸の強度は鋼鉄よりも強く、伸縮性もあり熱にも強い地上最強の天然の糸ともいわれています。蜘蛛の糸の引っ張り強度を実験で測定している科学者もいて、その強度は保証されています。
蜘蛛の糸には、その用途・目的ごとにいくつもの種類があります。獲物を逃がさないために、横糸には粘着剤が塗られていることはよく知られていますね。顔などにくっつくとなかなか取れません。そのほかに、獲物を捕獲して運ぶためにグルグル巻きにする糸や、蜘蛛の巣で自身が歩く縦糸、ぶら下がったりするためのけん引糸などがあります。芥川龍之介の小説「蜘蛛の糸」に出てくる、天井に上るための蜘蛛の糸がこのけん引糸です。この糸を集めてハンモックを作っている教授もいます。
蜘蛛の糸を量産するのであれば蜘蛛をたくさん育てればいいではないか。誰しも、真っ先にこの方法が浮かびます。技術者たちも、この方法を試みていますが、蜘蛛同士が争ってしまうためうまくいきませんでした。また、この方法では、均一の糸を作ることや、種類によって作り分けることも難しかったようです。蜘蛛の糸の素晴らしさは分かってはいても、その再現がどうしてもできなかったのです。
そのようななか、日本のベンチャー企業「Spiber社(スパイバー社)」がこの天然の蜘蛛の糸と同じ性能をもった人工的な蜘蛛の糸を生産することに成功させたのです。これは世界初の快挙です!蜘蛛の遺伝子を微生物に組み込むことで、大量に糸を生み出すという方法で人工蜘蛛の糸を誕生させました。
スパイバー社の蜘蛛の糸は、途中で染色ができるので後から染め直す手間がかかりません。なにしろ軽くて丈夫な繊維であり、なおかつ伸縮性もあるので使い勝手が良いのが特徴です。
この結果、さまざまな企業から商品の共同開発の話がでてきています。いくつかの商品をみていきましょう。
はじめに、共同開発ではないですがスパイバー社が独自に開発した商品です。人口合成クモ糸をを衣類用繊維として活用しています。
出典:Spiber株式会社HP 「2013.5.25 六本木ヒルズにてドレスを展示しております」より
次に、THE NORCE FACEなどを取り扱う、株式会社ゴールドウインと共同開発を行っている、アウトドア用のアパレルです。
出典:Spiber株式会社HP 「2016.4.28 庄内空港にてMOON PARKAが展示されます」より
さいごに、LEXUS社が2016年パリモーターショーで出展した、人口クモ糸を使用した自動車用シートです。
出典:Spiber株式会社HP 「2016.9.16 LEXUSのコンセプトシートに「QMONOS」が使用されました」より。
このように、新素材を活用したい様々なメーカーと共同開発を行い、新たな商品を生み出しています。これは、オンリーワンの素材を扱っているからならではないでしょうか。
今後も、用途は広がってくるでしょう。
以前、新素材として様々な活用方法が模索されてきたカーボン繊維も、最初は軽くて丈夫な繊維であることは分かっていても、その加工のしにくさからも広がるのに時間がかかっていました。蜘蛛の糸も、何に使うのが一番効率よいのか?今後の課題ではないでしょうか。
スパイバー社の活動は、蜘蛛の糸の生産だけに終わっていません。生物はたんぱく質なしには生きていけません。たんぱく質は20種類のアミノ酸の合成パターンによって、様々なものに形を変えています。それと同様にして、組み込む遺伝子を変えることで、様々な種類の繊維を作ることが可能です。
今後は、こんなものに使いたいので、こういう繊維が欲しいというオーダーにも対応できるようになるだろうと代表の関山社長はおっしゃっています。夢のような話が、現実に起こせるようになる技術の発展は素晴らしいものですね。
スパイバーは、世界初の開発に成功しました。失敗しながらも、あきらめないことが成功につながっていると話されています。失敗はつきものだが、それを乗り越えて初めて価値のあるものができるのです。
この価値があるものがあれば、日本であろうが世界であろうが場所は関係ありません。スパイバー社は世界的に価値のあるものを生み出したことが経営の基盤になっています。しかしながら、すべての会社がこうなるわけではありません。
その地域だけで必要なものを生み出す。日本固有の必要なものを生産する。これらの方法であれば、多くの中小企業においても、オンリーワンもしくはナンバーワンになれる可能性があります。たとえば、地元の伝統食を使った観光客向けのメニューを考えれば、そのメニューは地域オンリーワンです。
今の時代、情報の流通速度はとても早くなっています。面白い商品があれば、顧客だけでなく、他メーカーなどからも共同開発等の声がかかることも多いでしょう。今回、紹介したスパイバー社がまさにこの典型です。
この分野ではオンリーワン!この分野ではナンバーワン!といえる分野を作ることが会社の将来を創るといっても過言ではないのではないでしょうか。