ROEという経営指標が、中期経営計画を策定する上で重要な骨子となってきているといことをご存知でしょうか?
現在、どの企業の中期経営計画をチェックしても、ROEという数値を意識していないものをみつけるほうが難しくなっています。
今や経営計画を策定する上で避けては通れなくなってきたROEですが、この数値はどのような意味を持っているのでしょうか? また、ROEを向上させるには、どのような手段が考えられるのでしょうか?
今日はROE経営について考えていきましょう。
ROEとは「Return On Equity」の略で、「自己資本利益率」のことを指します。株主からの投資を受けた自己資本に対して、どの程度の利益を実際に稼いでいるのか、という投資の効率性を測る数値ということです。
ROE経営というものが日本企業において注目された背景には、2014年8月に公開された「伊藤レポート」の存在があります。
このレポートは経済産業省が中心となって作成し、「持続的成長への競争力とインセンティブ〜企業と投資家の望ましい関係構築〜」プロジェクトの最終報告書として発表されました。
「伊藤レポート」では、日本経済の低迷の原因を日本企業の利益効率の低さに認め、稼ぐ力を取り戻すことの重要性が説かれています。
その中でプロジェクトリーダーを務めた一橋大学大学院特任教授の伊藤邦雄教授が、「日本企業はROE8%を最低ラインとして、その上を目指すべき」と述べ、企業の成績の一つの重要な指標として大々的にROEが登場してきました。
そして今やその数値達成の重要性が経営者、ひいては現場にまで浸透してくることとなったのです。
それでは、経営者はどのようにしてROEの数値を求め、その数値の改善を目指すべきなのでしょうか。
まず、ROEの計算式からみていきましょう。
このように、分子の当期純利益額を、分母の自己資本(株主から預かっている資本金)で割ることでROEを算出することができます。
ROEを高めるためには、分子である当期純利益額を増やす、もしくは分母の自己資本を小さくする、といった方法があるということが計算式からわかるでしょう。
それでは、ここからは実際の数値例を用いてROE改善を目指してみましょう。
時価総額、売上ともに日本一を誇る、トヨタ自動車を例に挙げて見ていきます。
まず、トヨタのROEを算出してみましょう。
この10%という数値がスタート地点となります。
伊藤レポートでは「8%以上が望ましい」とありますから、トヨタ自動車はこの目標値をクリアしていることになりますね。流石です。
ただ、ここで豊田章男社長が更に1%のROE改善を目指すとしたら、どのような手段があるのでしょうか。
まず検討してみるのが、分子である当期純利益額の増加です。
トヨタ自動車の当期純利益は1兆8000億円にも上ります。この利益をさらに増加させるためにはどうすればよいか。第一に考えられるものは、売上高の向上でしょう。
現在のトヨタ自動車の売上高は約27兆円ですが、これを30兆円にすることができれば、当期純利益額も増加することでしょう。
ただ、一言に売上高を上げると言ったところで、この競争が激しく変化も大きいご時世ではなかなか難しいものがあります。
そこで次に考えられるのが、コストの削減です。もしトヨタ自動車が設備投資や生産システムのカイゼンにより、コストを2000億円削減できたとします。
そうすると、例え売上が横ばいでも利益額が増大し、ROEの数値は11.1%と向上することがわかります。
ROEを高めるうえで、もうひとつ考えられる方法が、分母である自己資本の削減です。その手段の一つとして、積極的な増配が考えられます。
配当金は貸借対照表の自己資本の部にある、「利益剰余金」から支払われます。この利益剰余金は過去の当期純利益を溜め込んできたものですが、ここからの配当を増加させることで自己資本の削減を実現できます。
また、自社株買いもROE向上には有効な手立てになるでしょう。
市場、創業者一族、従業員などに分散されている自己株を取得すると、その分の金額は貸借対照表の自己資本の部においてマイナスで表記されることとなります。そうすることで自己資本をより圧縮することができます。
こうした手段により、トヨタ自動車が自己資本を2兆円減らすことに成功したとしたら、ROEは11.2%へと向上することになります。
このように、ROE経営とその向上方法について見てきました。
ROEとは投資家へ向けた、最も重要な経営目標のメッセージの一つともいえます。今後もグローバル化や資金調達の多様化により、こうしたROEといった国際的な指標を意識した経営計画の策定の重要度は増していくことでしょう。
ぜひ、みなさまも、経営計画を作成する際は、ROEを意識してみましょう!