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中期経営計画は実行力が命! シャープ復活の要因とは?

 

日本を代表する発明家、早川徳次による創業から約100年を迎えたシャープ株式会社は、2016年に日本の大手電機メーカーで初めて海外資本の傘下に入りました。買収したのは、鴻海精密工業。東証二部へと格下げされたシャープは、台湾を代表するEMS企業の元で再建を目指すことになりました。

 

その衝撃から1年4ヵ月、シャープは驚くべきスピードで経営再建を成し遂げ、東証一部復帰を果たします。この短期間での復帰は、東証始まって以来のスピード復帰となったようです。

 

では、シャープはどうしてこれほどまで急速に業績を回復させることができたのでしょうか?

 

今回はその秘密を、シャープの中期経営計画を軸に探っていきます。

 

 

2015年、背水の陣での中期経営計画

 

鴻海による買収から遡ること1年、シャープは2015年度中期経営計画の基本戦略を発表しました。

 

出典:シャープ株式会社「2015〜2017年度中期経営計画

 

 

 

この中期経営計画では基本戦略として、3つの重点戦略を挙げています。

 

まず事業ポートフォリオの再構築です。液晶テレビ、パネルといった主力商品のコモディティ化が進み、価格競争の激化により収益性が低下しました。そのことから、液晶ビジネスからしっかりと利益の取れる事業へと軸足を移そうというものですね。次に固定費の削減。人員の削減や土地・建物の売却、人件費のカットといったような施策により、利益率の向上を目指しています。最後に組織、ガバナンスの再編・強化。人事改革や経営体制の刷新を目指しました。

 

こうした方針と共に発表された2015年度決算は、なんと2,223億円もの赤字。まさに背水の陣の中での中期経営計画でした。

 

 

2年連続の巨額赤字

 

新たなる中期経営計画を元に復活を目指したシャープでしたが、蓋を開けてみれば、この経営計画による効果がほとんどなかったことが明らかになってしまします。

 

次年度である2016年度の決算は、2259億円もの赤字……。これが新たなる中期経営計画の結果でした。

 

これにより債務超過に陥ったシャープは台湾のEMS大手の鴻海精密工業によって買収され、社長には鴻海創業者、郭台銘氏の右腕である戴正呉氏が就任しています。

 

しかし、前述のとおり、戴氏の手腕によってシャープは復活を遂げ、史上最速での東証一部復帰を果たしたのです。

 

これほどの∨字回復を果たしたのですから、さぞ大きく経営計画の舵を切ったのだろうと思われるかもしれません。しかし、実はそうではないのです。

 

 

 鴻海流経営再建とは?

 

戴氏が行ったことは、2015年に制定されたシャープの中期経営計画の内容と実は大差がないのです。

 

例えば、戴氏が力を入れたことは、2015年度中期経営計画にも重点項目として挙げられていたコストの削減でした。ただ、その徹底ぶりが大きく異なっていたのです。

 

同社では、100万円を超える案件は全て社長が決裁する、購買部門へのコスト意識の徹底など、徹底的にコスト削減が行われています。台湾企業ではコスト削減が達成できなければ工場長は即クビ、というくらいコストに厳しいといいます。他にも、シャープは大幅な人員削減、設備投資削減などを実行しました。こうしたコスト削減への厳しい姿勢を導入し、収益性を向上させたのです。

 

また、新生シャープは従来と同じく、事業ポートフォリオの刷新を目指しました。

 

出典: シャープ株式会社「2017〜2019年度中期経営計画

 

 

 

こちらが2017年度の事業ドメインです。8K、車載、IoTなど、成長市場での事業拡大を目指しています。

 

 

経営計画では、実行力とメッセージ性が必要!

 

このように、鴻海に経営が代わったからといって、新生シャープの戦略は従来からあった中期経営計画と大きな変更点はないのです。

 

ただ、もっとも違うことは、実行者が、鴻海を世界的企業へ育て上げた一人、海千山千の経営者である戴氏となった、ということでしょう。実行者が異なるということだけで、同じような経営計画であっても、全く異なる結果を導くということもあるということがわかります。

 

当然ですが、中期経営計画は作ることが目的になってしまってはいけません。実行に移すことこそが重要です。その証拠に、2015年の中期経営計画は51ページものボリュームであるのに対して、2017年の新たな中期経営計画はその三分の一以下、16ページしかありません。

 

 

ボリュームが「シャープ」になった新たな中期経営計画には、「One Sharp」として再建を目指す将来の方向性を明確に示されています。これにより、鴻海はシャープを「解体」(切り売り)するのではないか?  という従業員やサプライヤー、地域社会などの不安を取り除くこともできました。

 

メッセージがより明確になり、それが士気の向上に繋がり、復活の一つの原動力になったのは明らかでしょう。このように、経営計画は株主へのメッセージというだけでなく、全てのステークホルダーへ未来を示し、モラール向上のための重要なツールでもあることもわかります。

 

シンプルでメッセージ性をもった経営計画を如何に実践し、経営力の向上につなげていくか。シャープ復活からは、その重要性と効力を学ぶことができるのではないでしょうか。