船舶のほか、重機、航空機、鉄道車両といった事業を行い、日本の名門重工業企業として名を馳せる三菱重工。日本最大の旧三菱財閥グループの中核企業としても有名ですね。
そんな超一流企業である三菱重工に、逆風が吹き荒れています。
いま最も注目されている事業である、国産ジェット旅客機「MRJ(Mitsubishi Regional Jet)」プロジェクトは開発が難航。さらに、1月には米イースタン航空から受注していた40機がキャンセルされてしまう事態も発生しました。
同じく国産ジェット機として注目を浴びてきたホンダジェットがついに大空へ飛び立ち、小型機セグメントでシェア1位を獲得。ホンダの新たなブランドアイコンとして成長しているのとは対照的な状況であるといえます。
売上高の伸びも大きく鈍化してきており、中期計画である「2015事業計画」で掲げた売上高5兆円という目標も、今は遠くにあります。
出典:三菱重工株式会社「2017年度第3四半期 決算説明資料」
では、どうしてここまで名門企業が苦戦しているのでしょうか? 今回は三菱重工が展開している3つの事業と、その経営環境について見ていきましょう。
三菱重工の事業ドメインのひとつである「パワードメイン」は火力発電システム、コンプレッサ、原子力といったエネルギー関連事業を展開しており、2017年度の売上見通しは1兆5,500億円と、全体の売上高の40%弱を占める主力事業です。その内訳を見てみると、火力発電システムが4分の3ほどを占めていることが分かります。
出典:三菱重工株式会社「三菱重工グループ統合レポート」
三菱重工の火力発電システムは環境対策技術や高効率、高出力システムにより非常に高い競争力を持っています。しかし、その火力発電システム市場そのものの環境が大きく悪化しています。
まず挙げられるのが、再生可能エネルギーへの世界的なシフトです。
地球温暖化対策や環境規制強化への意識が高まっており、石油を用いた化石燃料発電から、風力をはじめとするよりクリーンな再生可能エネルギーへの注目が集まっています。
さらに、中東での政局不安といった地政学的なリスクによる将来的な石油の供給不安が、この変化を加速させています。
2017年のセグメント営業利益の見通しは1,000億円と、依然として優等生事業ではありますが、全社的な成長ドライバーとしての役割を果たすには厳しい業界構造となっていくことでしょう。
このなかで三菱重工は、ものづくりで培ったIoT技術を活用した高度なソリューションにより、競争力の向上に取り組んでいることがわかります。
出典:三菱重工株式会社「三菱重工グループ統合レポート」
インダストリー&社会基盤事業の2017年度売上高の見通しは1兆8,500億円と最大規模になっています。この事業は実に13ものドメインから構成されており、さまざまなトレンドの影響下に置かれています。
出典:三菱重工株式会社「三菱重工グループ統合レポート」
数あるドメインの中で最も注目すべきはターボチャージャ事業でしょう。
世界中でのガソリン車規制強化の流れにより、電気自動車やHV、PHVへのシフトが進んでいます。多様化していくパワートレインに対応した製品の開発、投入により、中国メーカーを中心に採用が広がっています。
また、フォークリフト事業も、ECサイトの台頭を背景とした需要量の増加により好調を維持しています。
その結果、セグメント営業利益の見通しは800億円(前期比60%)と実績を出しつつあります。
しかし、営業利益率は4%ほどであり、全社的な収益貢献にはあと一歩といったイメージがあります。
最後に取り上げるのが、冒頭でもご紹介したMRJの開発も担うこちらのドメイン。
ドメインの売上合計は2017年度に6,500億円を見込んでいますが、注目のMRJは全体の約3分の1ほどを占めるに留まっており、主力は防衛・宇宙事業となっています。
出典:三菱重工株式会社「三菱重工グループ統合レポート」
MRJの苦境は前述しましたので、ここでは防衛・宇宙事業についてみていきましょう。
防衛・宇宙事業は政府予算に応じて受注額が決定するため、ここ20年ほどずっと横ばいです。
そのため海外への販路拡大に活路を見出そうとしており、2016年にはオーストラリアでの4兆円規模の受注合戦に参画しました。しかし最終的に受注には至らず、それ以降海外での受注案件自体がないという状況です。
当セグメントの営業利益は100億円の見通しとなっており、厳しい経営環境にあると言えます。
これまで見てきたように、三菱重工を取り巻く経営環境は厳しさを増しています。そのため、国産ジェット機であるMRJの失注や開発の延期は名門の落日の象徴として大きく報道されています。
このように多くの耳目を集めるMRJですが、これは三菱重工に対する期待の大きさと比例しているのではないでしょうか。
「国産ジェット機事業」そのものはひとつの事業、ひとつのブランドに過ぎないかもしれません。
しかし、かつては世界の最先端にあった日本産業界にとって、名門である三菱重工とジェット機は、大きな希望であることは間違いありません。
三菱重工が再び航空産業の未来を背負い、MRJとともに飛び立つ日が待ち遠しいですね。