「アマゾン・エフェクト」という言葉が紙面を賑わせています。
これはアメリカの大手IT企業であるAmazonが、巨大な濁流のように様々な業界を飲み込んでいく現象を表したものです。
大手ECサイトとして小売業界の勢力図を大きく変貌させたAmazonですが、いまやその影響力は物流やデータベース、AI、果てには金融にも及ぼうとしています。
時価総額は81兆円と、ついにGoogleの親会社であるアルファベットを越え、世界第2位へと上り詰めました。これは実に、トヨタ自動車の4倍近くにのぼります。
IT産業の生み出した巨大なメガカンパニーであるAmazon。その影響力は日に日に高まっていますが、そのAmazonのビジネスモデルとはどういったものなのでしょうか?
今日はAmazonの財務諸表を読み解き、その常識外れな経営計画に迫っていきます。
まず、Amazonの財務諸表からその経営計画に迫っていきましょう。
Amazonの公表する財務諸表によると、Amazonは世界中での事業を大きく3つに分けており、売上高は下図の通りとなっています。
出典:Amazon annual report2016 P.23
セグメント別売上高は「北米事業」が第一位で、実に8兆円以上(1ドル=107円として計算、以下同)もの売上げを叩き出しています。ちなみに、この8兆円という売上げはソニー1社の年間売上高とほぼ等しくなっています。
しかし営業利益に目を転じてみると、「AWS事業」の営業利益の膨大さに驚かされてしまいます。
出典:Amazon annual report2016 P.24
約1兆3000億円の売上高に対して、なんと3300億円規模の利益を叩き出しているのです。
このAWSというのはAmazon Web Servicesの略称で、クラウドでのデータの管理やアプリケーションの提供を行っている事業です。Amazonは消費者向けのECサイトのように思えて、実はB2Bの事業で利益を出している会社であることがわかります。
もう一つ特筆すべきは、「International事業」の赤字の巨大さでしょう。
出典:Amazon.com「Q4 2017 Financial Results Conference Call Slides」 P13
この赤字額は削減するどころか年々増加しており、売上高が増加するほどさらに赤字が大きくなるという構造となっています。
ここから、Amazonの経営計画の特徴が見て取れます。
Amazonは全社で利益を出すこと以上に、AWSや北米での利益を、とにかく世界での事業拡大やイノベーションのために投資しているのです。
ではAmazonはどのようなイノベーションを起こし、その売上げをのばしているのでしょうか?
今日はその革新性が特に光るAmazonのサービスを2つ挙げてみます。
近年Amazonが起こしたイノベーションとして第一に挙げられるのが、「アマゾンエコー」と呼ばれるAIスピーカーでしょう。
北米では、「アマゾンエコー」は一家に一台の普及スピード
AIスピーカーとは、人の声に反応し、音楽を流したりニュースを読み上げたり、果ては部屋の電気やテレビの点灯なども行う「スマートスピーカー」のことです。
GoogleやLINEなどが参入していますが、AmazonのAIスピーカーであるアマゾンエコーは圧倒的なシェアを握っています。
2017年までに、なんと3,100万台を世界で販売しており、スマートスピーカー市場のシェアを70%も占めているのです。
世界市場でAmazonはgoogleとしのぎを削っている
出典:ロボスタ「【CIRP調査】2017年Q4アメリカのスマートスピーカー出荷台数・シェア調査、Googleのシェアが30%超へ」
AIスピーカーは「スマホの次」といわれるほど大きな期待を集めるデバイスですが、高度なAI技術や音声認識技術の開発、データベースの構築には大きな投資が必要です。
しかしAmazonは収益性を無視してでも、この領域での支配力の向上をねらっているようです。
また、Amazonの有料会員サービスである「アマゾンプライム」の存在も、Amazonの存在感の膨張に大きく寄与しています。
速達サービスだけでなく、音楽やビデオも楽しめる。
もともと「アマゾンプライム」は、「お急ぎ配送」「配送料無料」といった、本業のECサイトのオプション的な位置づけのサービスで、日本でも年間4,200円で提供されてきました。
これだけでも消費者にとってメリットの大きいサービスですが、このアマゾンプライムの真の恐ろしさは、オマケとして付いてくる「プライムビデオ」の存在です。
洋画、邦画、アニメ、ドラマまで、膨大なラインナップを揃える
「プライムビデオ」はインターネット上での動画の見放題サービスで、人気のドラマやアニメを数多く取り揃えています。只のオプションだと思うなかれ、その品揃えを見れば、TSUTAYAへ足が遠のいてしまうでしょう。
そして何より特筆すべきは、オリジナル作品の製作です。ハリウッドでも活躍する超一流の俳優、女優、スタッフを動員した非常にハイクオリティな作品は、まさに超大作揃いなのです。
そしてその製作費は、なんと年間5,000億円を予定しているというのですから、スケールがとんでもないですね。
参考までに、サイバーエージェントが運営する「AbemaTV」の投資額が200億円ほどと言われています。無料で見られるネットテレビとして、昨年は元SMAPメンバーによる生放送で大きな話題を集めましたが、あまりにも桁が違います。
Amazonはただの「オマケ」であったはずのコンテンツの見放題サービスの魅力を極限まで高め、消費者を囲い込んでいるのです。
このように、Amazonは莫大な利益を積極的に投資し、売上高の向上だけでなく、経済圏の構築を物凄いスピードで進めています。
本来は利益を出し、株主に配当として還元することが企業としての第一目標です。
しかしAmazonは株主利益よりも消費者利益、ひいては世界を作り変える事業の加速を第一に経営計画を立て、運営していることがわかります。
もはや従来の常識の通用しない超巨大企業の影は、どの業界においても、すぐそばまで迫っています。