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スシローのメニュー戦略から見える100円寿司の事業計画と経営計画

 

100円寿司業界といえば、かっぱ寿司がその首位から陥落し、「安かろう不味かろう」のイメージとともに地に落ちて久しい。
代わって首位の座に上り詰めたのはあきんどスシローだったが、以降くら寿司とはま寿司がその後を追う展開で、実質的な3強時代が続いている。

 

売上高はそれぞれ、2017年の有報(有価証券報告書)などを参考にすると概算以下の通りだ。
やはり、スシローが頭一つ抜けているのが直近のマーケットの状況になっている。

 

1位 スシロー 1480億円
2位 くら寿司 1140億円
3位 はま寿司 1100億円
4位 かっぱ寿司 800億円

 

この中で、4位に甘んじているかっぱ寿司は新基軸を打ち出せないまま未だに迷走を続けており、経営者として参考になることは余り多くない。
はま寿司についても、平日90円セールを常時実施するなど今も「デフレの勝ち組」を狙うゼンショー戦略の印象が拭えず、やはり中小企業経営者にはその模倣は現実的ではない。

 

一方で、全く新しいアプローチで売上を伸ばしているくら寿司。
それを横綱相撲で受け止めるスシローの経営戦略・事業計画からは、経営者として非常に参考になることが多く、以下その思うところを記していきたい。

 

 

やってしまったと言ったところだろうか。
ついにスシローが、カレーに手を出してしまった。
この画面は2018年6月のものだが、夏の新メニューとして初めてお披露目した。
リリース当初では1種類のみで、横展開の兆しは今のところない。
しかし、誰が寿司屋でカレーを注文するというのだ。しかもスシローの場合、カレーうどんである。
誰かが注文するだけでフロア中がカレー臭くなり、他の客に嫌がられるのはくら寿司を見れば明らかではないか。

 

しかしそれでもスシローがカレーに参入したのは、くら寿司が新たに100円寿司業界に生み出し成功した文化、「食後のコーヒー」の影響が大きいだろう。
投入当初、誰もがその試みをキワモノであると評価し、必ずコケると予想していた食後のコーヒーであった。
しかしそれは大ヒット商品になり、スシローも続かざるを得なくなったほどの人気商品になったことは今も記憶に新しい。
結局くら寿司は、これに気を良くしたのか本業の寿司ではどうしてもスシローの後塵を拝していたため、急激にその活路を、サイドメニューに求めるようになる。
そして牛丼、カレー、ラーメン、イタリアンメニュー、さらには、シャリを大根にしてしまったシャリ野菜を投入するなど、もはや寿司も頂けるファミレスとして、その独特の地位を固めつつあるのが2018年の状況だ。
そしてこれはこれで、個食化が進む現在のファミリー事情にマッチし、多様な好みに対応できるレストランとして業界2位をキープするに至っている。

 

ではなぜ、本業の寿司で勝負できるスシローが、カレーうどんなどというキワモノに手を出したのか。
私は逆に、そこに横綱らしい戦い方が透けて見えると判断している。
実際の商品をご覧頂きながら、お話したい。

 

 

 

こちら、スシローが新たにリリースしたぶっかけカレーうどん330円だ。
頂いた感想は、粘りのないインスタントのカレーをただうどんに掛けただけのものである。
コスパを考えてもおそらく、これを注文する人はほとんどいないだろう。くら寿司と違い、短命で終わる可能性が高い。
しかしこのカレー、頂いてみればわかるが、カレーらしい味と風味はそのままに、カレーらしい強烈な香りをほとんど出していない。
おそらく独自にブレンドし開発したルーのノウハウが有るのだろう。香りの成分を抑えめにし、なおかつ冷たいうどんに人肌のルーをかけることで、周囲への影響を最小限に抑える工夫をしている。
これなら、隣の席から舌打ちされる心配も無さそうだ。後発組として、ただ同じような商品を出すだけのようなリリースに甘んじないのもまた、スシローらしさだろう。

 

そしてなぜスシローが、そこまでしてこのカレーを投入したのか、という問題である。
今回については、売上を伸ばそうと言うよりも、新しい価値観と可能性を模索し続ける試みの一環であると考えて、まず間違いない。
上場企業の宿命として、スシローは売上と利益を伸ばし続ける永遠の義務を背負っている。しかし、寿司だけではどれだけ工夫しても、飽きられる可能性と戦い続けなくてはならない。
結局のところ、顧客を飽きさせず売上を伸ばし続けるには、寿司と相性が良い、もしくはケンカしない裾野の開拓がもっともてっとり早く、その研究と開発は特に熱が入るところだろう。
その試作として、くら寿司に習い更に発展させて、他のメニューの風味と香りを壊さないカレーを試験導入したのは、非常に良く理解できる事業戦略であり、納得性が高い。

 

しかし、その一方で見えてくるもう一つの事実がある。

 

 

こちらは同時期の、スシローのおすすめメニューだ。
ご覧のように、板前寿司屋でも小規模店舗であれば置いていないような、江戸前のネタが並ぶ。アワビの握りが100円など、街の板前寿司屋にとってはもはや暴力とも言える価格設定だ。
またサーモンも、輸入の脂ぎったノルウェーサーモンだけではなく、白身と脂身のバランスの良い国産生銀鮭を出すなど、顧客の多様な好みにあくまでも寿司で応じる。
また生エビに麻辣(マーラー)と揚げネギをトッピングした創作寿司を並べるなど、創意工夫を寿司という範疇で勝負を仕掛ける経営方針がよく現れている。

 

結局のところ、スシローに来る客は、寿司を求めて足を運ぶということだ。
一方でくら寿司にはその訴求力が弱く、そのため早くからサイドメニューに走ったという経営戦略があった。
裏を返せば、皮肉なことに、寿司が弱かったためサイドメニューが充実したとも言える。
そしてスシローでは、寿司という大きな幹が揺らがないために、今のところサイドメニューの存在感は薄い。しかし研究はする。まさに横綱相撲と言ったところだろう。

 

おそらく近いうちに、このスシローのカレーうどんは定番メニューから姿を消す事になるはずだ。
そしてそれこそが、スシローでは“まだ”、サイドメニューを求めて顧客が足を運ぶに至っていないという一種のバロメーターになるのではないだろうか。

 

はたしていつ、スシローは本格的に“キワモノ”に進出するのか。
100円回転寿司のサイドメニューからも、それぞれの生き残り戦略と経営計画が色濃く読み取れる。
大いに参考にして、勉強させて貰いたい。