以前であれば「商品を仕入れて販売する」といったシンプルな商売をする会社がほとんどでした。しかし、近年はビジネス形態が多様化しています。最近ですと、「領収書を10円で買い取ります!」なんてサービスも。どうやって収益化しているのか気になりますよね。
金融機関に融資を依頼する際や、外部の人と名刺効果をする際など、自社のビジネスモデルを第三者に伝える機会は結構あります。しかし、しっかりと伝えるのは意外と難しいもの。今までにないビジネスモデルであれば、特にそうでしょう。
そんなときに非常に有用なのがビジネスモデルキャンバスと呼ばれるフレームワークです。今回はビジネスモデルキャンバスの作り方について見ていきたいと思います。
ビジネスモデルキャンバスには9つの枠組み(フレーム)が用意されています。これらを埋めていけば、網羅的にビジネスモデルを分析すことができるのです。
ビジネスモデルキャンバスは、既存事業を分析する他に、新たなアイデアを生み出す際にも使われます。単なるアイデアにビジネスとしての輪郭を肉付けし、新規事業にする。そんな使い方ができるです。
さぁ、それではこれに一つずつ埋めて新規事業を創り出しましょう! …と言っても何から埋めていいのかわかりませんよね。そこで今回は、実際に存在するビジネスをビジネスモデルキャンバスに当てはめながら理解していきましょう。
今回取り上げるのは、個人間商取引のプラットフォームを運営し、2018年6月に株式上場を果たした『メルカリ』です。個人間の商取引プラットフォームを運営する、メルカリのビジネスをビジネスモデルキャンバスで分析してみます。
ビジネスモデルキャンバスを利用する上で、まず埋めるべきは、中央に鎮座する『価値提案』です。
メルカリの場合、ここに当てはまるのが「個人間で簡単かつ安全にモノを売買できる」という価値でしょう。この価値提案はファウンダーである山田進太郎氏が世界を旅しているときに思いついたものであるとされていますね。
ここを考えるにあたって留意して頂きたいのは、真に共感を呼ぶ価値提案の多くは、個人の経験や価値観といった、ごくごく主観的な問題意識や美意識から発することが多いという点です。ある意味「論理的」でなかったとしても、「こんな世界になったらいいよね」「こんなものがあったら便利じゃない?」という情熱、そして他者を共感させることができる熱量こそがこのパートの作成において非常に重要なのです。
この『価値提案』こそビジネスモデルキャンバスのスタート地点として最重要であり、ビジネスの体幹のようなもの。この部分は決してブレてはいけません。
次にビジネスモデルキャンバスの右半分の部分について見てみましょう。
右端に見える『顧客』というのは、自分たちのプロダクトやサービスがターゲットとする人間像と言い換えてもいいでしょう。メルカリの場合、下記のような顧客を想定していると思われます。
・中古品に抵抗がない
・日頃からデジタルデバイスに触れている
・個人情報を企業に預けることに不安を感じない
・ミレニアル世代
次に『顧客との関係』とは、プロダクトやサービスが顧客と「どのくらいの頻度で」「どのくらいの深度で」接するべきなのかを想定する作業になります。メルカリは自社で提供するアプリケーションのデザインが、いかに見やすく、わかりやすく、サクサク動くか、という点を特に重視しているように見えます。そこから、「毎日でも使ってもらう」「生活の一部になる」ほど継続的で深い関係性の構築を目指しているのではないでしょうか。
『チャネル』において考えるべきは、どのようなルートを通じて顧客にプロダクトやサービスを届けるのか、ということです。例えば家電であれば販売チャネルとして「家電量販店」「EC」「直接販売」などを検討するべきですが、メルカリの提供しているプロダクトは、言ってしまえばすべてがスマートフォンアプリです。そのためチャネルと呼べるのはApp StoreやPlay Storeのみであり、アプリ配信プラットフォーム以外の選択の余地はありません。
これら顧客にいかに価値を届けるのか? という点に着目した3点をビジネスモデルキャンバスに落とし込むと、以下のようになります。
次はビジネスモデルキャンバスの左半分の部分についてみていきましょう。
『主要活動』とは、自社の価値提案を実現するためのプロダクトやサービスを開発するための活動のことです。安心安全で、快適な個人間取引を実現するアプリを開発するメルカリの主要活動としては、以下のようなものが挙げられそうです。
・ 快適なユーザーインターフェースの開発
・ 強固なセキュリティシステムの構築
・ 簡単な配送システムの実現
・ 不正な出品の摘発
・ 顧客トラブル迅速かつ適切な解決のためのカスタマーサポート
『主要リソース』では、主要活動を支えるべき「ヒト・モノ・カネ・情報」といった経営資源のうち、強みとすべき領域を検討します。メルカリはテクノロジー企業ではありますが、特筆すべきは人材の豊富さでしょう。自分自身でかつて起業し、成功させてきたような若手起業家がどんどんメルカリへ入社してきており、それが事業推進力へと繋がっているようです。
そして『パートナー』では、自社にはないリソースを補うために協力関係を築くべき企業を挙げていきます。メルカリのパートナーとして想定できるのは以下のような企業が考えられます。
・アプリ配信のプラットフォーマー(Apple、Google)
・荷物の配送業者(佐川、ヤマト)
・荷受け業者(各種コンビニエンスストア)
これらの要素はいわば顧客からは見えない、ビジネスの仕組みの部分です。しかしこれらを緻密に設計することも競争優位に繋がるため、きちんと検討していきましょう。
最後にビジネスモデルキャンバスの下部に位置する二要素を見てみましょう。
『収入の流れ』では誰が、いつ、どのように自社のプロダクト・サービスに対して対価を支払ってくれるのかを明らかにします。個人間で売買取引が成立した場合、メルカリでは売上の10%が手数料として徴収されています。つまりメルカリにおいては「売買手数料」が主な収益として挙げられます。
そして『コスト構造』ですが、ビジネスを回していくうえでどの部分にコストが発生しうるのかを明らかにしています。手数料を主な収益源としているメルカリでは、ユーザーが増えるほど収益が向上していきます。そのためサービスの周知性を向上させるためのマーケティング費用、そして増加するアクセスに耐えうるためのサーバー等のシステム構築に最もコストがかかると予想されます。
このようにしてビジネスモデルキャンバスを一つずつ埋めていくことで、最初は情熱とアイデアでしかなかった価値がビジネスとしての輪郭を形成していきます。
新しくビジネスを考える上では、まず価値提案がどれだけ共感を呼び、情熱を持って取り組むことができ、また目新しさがあるのかを時間をかけて考えてみてください。そのアツい価値提案を核に組み上がったビジネスモデルキャンバスは、経営計画の骨太な骨子となります。
また、今回みてきたように新しいビジネスをビジネスモデルキャンバスを使って分析してみると、新しい着想が得られるかもしれませんね。ぜひ活用してみてください!