話はずいぶんと先に飛びますが、このおよそ1年半ほど後に私は、日本政策金融公庫から十分な融資を受けることに成功しました。
他にも、立ち上げたばかりの会社でありながらいくつか融資を受ける事ができましたが、正直、創業融資に慣れてしまえば、それほど難しいことではないことも、後になって気が付きました。
ではなぜ、創業時に私はお金を借りることができなかったのか。
今回の記事では、「今となってはわかる」という視点を踏まえ、少し種明かしをできればと思います。
まず大前提ですが、日本政策金融公庫の大きな役割のひとつは、創業資金を貸し出すことです。
そのため、基本的にはお金を貸したいと考えています。
恐らく、政策金融機関であることもあって、余りに出来高が少ないと問題になるでしょう。そのため、条件が整えば創業融資に取り組む姿勢はけっして消極的ではないはずです。
では、どんな相手であれば融資をしようと考えるでしょうか。
大きくは、回収できずに焼け付いてしまっても、言い訳ができる相手先です。
銀行の判断する与信を満たしていれば、銀行なりの言い訳が立ちます。そのいくつかのポイントを満たせば、融資の壁は決して高くはないということです。
その最も基本となるポイントは、経営者本人が立ち上げようとする事業に十分な経験があるかどうかということです。
ホテルのレストランで20年勤めていたシェフが、街でビストロを始めようとするのであれば、自己資金の額にもよりますが、恐らく1,000万円程度なら十分借りることができるでしょう。
(この場合も、十分に説得力のある事業計画書を用意する必要がある条件はもちろん変わりません)
次に考えられるのは、自分自身に十分な経験がなくとも、十分な経験がある人物の協力が得られて、なおかつ計画的に資金を用意している場合です。
日本政策金融公庫では、その審査にあたりどれほど計画的に開業資金を積み立てていたかを念入りに審査します。特に好まれるのは、毎月5万円ずつ、10年で600万円貯めたなどの履歴が全て、預金通帳で確認できる場合です。
公庫では、その事業に強い意志で取り組もうとする本気の度合いを、「どれだけ計画的な準備をしてきたか」という尺度で測ります。
そのため、「親戚から600万円借りてきました」などといって、1回でポンと600万円の入金が為されている預金通帳を見せても、100%その融資は断られます。
なぜなら、この手の資金の動きは、友人から「融資の審査の間だけ貸して!すぐに返すから!」などのような形で一時的に借りている可能性が捨てきれないからです。
私の知る限りでも、そのような悪巧みで融資を得ようとした経営者が何人かいますが、全員が断られていました。
長年に渡り、地道に準備した資金でなければ、日本政策金融公庫の担当者は容易に信じないということです。
ちなみに私が始めようとしていた業種は、それまで自分が主にこなしてきた仕事ではないものの、時々報酬も受け取りながら仕事をしていたセミプロであったものでした。
しかし、本業はCFOであり、「長年に渡って取り組んできた仕事」という形で客観的に見せられるものは何一つありませんでした。
また自己資金も、長年に渡り積み立てたものというよりも、最後の仕事を退職する際に引き出した自社株の売却金や運用していた株式を換金したものがほとんどで、証券口座から銀行口座にまとまったお金として移ったものが7割ほどを占めていました。残りは少しずついろいろな口座から集めたもの。
要するに、事業内容や資金に、計画性を感じさせるような内容はまるでなかったということです。
つまり私は、その仕事を熟知していることを証明することもできなければ、用意周到な準備をして独立したということも証明できずにお金を借りに行ったということです。
(実際に、勢いで独立した側面もあるのでなおさらです)
創業融資は、これらの条件が揃って、さらに中小企業診断士や税理士などに相談に乗ってもらい、適切な事業計画を立てることで、初めて容易に借りることができます。
それが私のように、事業計画だけは精緻で内容はよくできているが、創業融資を貸したくなる条件をいずれも満たしていないのであれば、借りられなくて当然ということです。
そのため、日本政策金融公庫は「お金を貸してくれないところ」だと誤解する必要はないのです。
長年に渡り実績を積み、なおかつわずかでも構わないので計画的に資金を貯めていれば、十分に融資を借りられるチャンスはあります。
事業計画書に不安があるようであれば、専門家の意見を借りながら一緒になって作ってみると良いでしょう。
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【ストーリー】起業者必読!! 500万円の創業融資失敗談と金融機関との付き合い方
はじめから記事を読む場合はこちら第1話 【ストーリー】起業者必読!! 500万円の創業融資失敗談と金融機関との付き合い方
第2話 思わぬトラップ、法人口座が作れない!
第3話 続く独立の厳しさ。一難去ってまた一難
第4話 リベンジを強く心に誓う
第5話 なぜお金を借りられなかったのか
第6話 日本政策金融公庫からの創業融資を獲得
第7話 計画的に銀行と仲良くなろう
第8話 与信を上手に積み上げる方法
第9話 【さいごに】結局のところ、大事なのは事業計画とそれを実現する強い意志