会社を立ち上げて最初にやるべきことは、会社の登記です。
登記簿謄本や印鑑証明も出せないようでは法人格を証明する手段がありません。雑用とはいえ、これは必ず最初に行う必要がありますね。
そして登記簿が上がり印鑑証明を発行してもらったらようやく銀行に行って、法人口座を作ることができます。登記簿謄本は、個人で言えば免許証などの身分証明書にあたるもの、印鑑証明書は実印証明にあたるものです。
どちらが欠けていても、ただでさえ法人口座の開設に厳しい銀行は、決して口座開設を認めてくれないのです。さらに、現代の日本社会において、法人でありながら銀行口座が作れないということは、まともな商業活動ができないことを意味します。
逆に言うと、登記を済ませ法人口座を作ってやっと、会社は最低限の体裁を整えられるということです。私も登記簿が上がるとすぐに銀行に向かいました。
季節はそろそろ新緑から初夏へと向い始めていた頃ですが、私が起業した2011年は夏の到来が妙に早く、汗だくになりながら坂を登り、オフィスから一番近くにある都銀の支店に足を運んだことをよく覚えています。
そこは、誰もが知る巨大な都銀。ロビーは多くの人で賑わっていました。
順番待ちのシートを取り、早く仕事を始めたい、逸る気持ちを抑えながら待つこと10分ほど、やっと私の番号がコールされ窓口へと向かいました。
「法人口座を開設したいのでお願いします。」
早くこの雑用を終わらせたかった私はぶっきらぼうにそう伝えると、予め記入していた用紙を順番待ちシートと共に差し出しました。
その時の、女性行員の表情は忘れようもありません。
一生懸命ビジネススマイルを作りながらも、目は決して笑っておらず、突然の場違いな闖入者を見るような表情を浮かべ、それでも私に着席を促すのです。
私はその対応を怪訝に思いながらも、さらに続けました。
「正直、少し急いでいますので、できればなるべく早く口座開設の手続きを進めてもらいたいのですが。」
女性行員は、一通りの書類を形ばかりチェックすると顔を上げました。
もうその表情には、ビジネススマイルすら浮かんでいませんでした。
「お客様、登記簿謄本は本日お持ちですか、印鑑と印鑑証明も必要なのですが」
「はい、全て用意しています。先程登記簿が上がったばかりですが、何部か持参してきました。」
「……そうですか、ではそちらもお預かりさせていただきまして、少しお待ち下さい。」
彼女はそういうと、それら書類を束ねてそのまま上席のもとへと歩み寄っていきました。
……何かがおかしい。
銀行口座の開設なんて、必要書類を渡したらあとは郵送を待つだけ、というのがそれまで私の知っている世界だったので、この明らかに歓迎されていない空気に戸惑いました。
程なくして女性は戻ってきたが、私が渡した書類を全て差し替えし、こう告げたのです。
「お客様、会社のWebサイトはお持ちですか」
「いえ、コマースサイトを主力事業にする予定で、今作りこみを行っている最中です。開発画面ならお見せできますが、中身はまだスカスカですよ?」
「そうですか、ではWebサイトができてからまたお越しください。」
「ちょっと待ってください、会社のWebサイトなど、ワードプレスで10分もあれば設置できますよ。それでいいのですか?」
「誠に申し訳ないのですが、事業内容が不明確な会社様には、法人口座をお作りしかねるのです。」
「・・・わかりました、失礼しました。」
早い話が、お前など信用出来ないということです。
おそらくこの銀行は、私がWebサイトを作ろうが会社案内をキレイに作ろうが、他の理由を付けて口座開設に応じてくれなかったでしょう。
ちなみにこの後、別の大手都銀でもほぼ同じ対応をされ、私は独立当初でいきなり、法人口座すら作れないという非常事態に直面したのです。
この与信の無さが、惨めさが、独立をするということなのかと、嫌というほど思い知るスタートアップになったのです。
<<次の記事 第3話 続く独立の厳しさ。一難去ってまた一難>>
【ストーリー】起業者必読!! 500万円の創業融資失敗談と金融機関との付き合い方
はじめから記事を読む場合はこちら第1話 【ストーリー】起業者必読!! 500万円の創業融資失敗談と金融機関との付き合い方
第2話 思わぬトラップ、法人口座が作れない!
第3話 続く独立の厳しさ。一難去ってまた一難
第4話 リベンジを強く心に誓う
第5話 なぜお金を借りられなかったのか
第6話 日本政策金融公庫からの創業融資を獲得
第7話 計画的に銀行と仲良くなろう
第8話 与信を上手に積み上げる方法
第9話 【さいごに】結局のところ、大事なのは事業計画とそれを実現する強い意志