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【ストーリー】売却価格を○倍に!! 事業売却(M&A)担当役員の孤軍奮闘記 第4話

 

M&Aの俎上において、圧倒的不利な状況に置かれている売り手。

しかしこのとき、さらに不利になる誤算が生まれてしまったのです。

 

それは、「専任仲介条項」を契約書に盛り込まれてしまったこと。

 

多くのM&Aでは、仲介業者は可能であれば自社以外の仲介業者と取引をすることを禁じ、自社が仲介した1社とのみ交渉をして、その交渉が終わるまで(破談になるまで)、次の会社と接触することを禁じる条項を盛り込もうとしてきます。

なぜなら、M&Aの仲介は長期に渡り専門的知識をもった社員を携わらせることになるために、非常にコストがかかるのです。取りっぱぐれを避けるために一方的に、仲介業者に有利なこのような条項を盛り込んできます。

 

一方で、事業の売却は言うまでもなくビット(入札)が基本となります。

ビットこそが唯一、売り手と買い手の立場を対等に持ち込み、また期限を切って事業を売却し現金に変えることができる手段だからです。

「どうしても売りたい」という売り手の立場と買い手の立場をイーブンにするためには、買い手候補を2社以上用意し、それぞれに「どうしてもこの会社を欲しい」と思わせなくてはなりません。

まずはこれが、事業売却に臨む売り手側の基本姿勢となるのです。

 

もちろん専任仲介は一方的なデメリットばかりではありません。しかしながら、複数以上の買い手候補を募ることができる事業売却に際しては、この「専任仲介条項」は圧倒的にデメリットのほうが大きいのは明らかです。

 

日本を代表する家電メーカーであったシャープの売却劇が記憶に新しい人も多いと思いますが、どこのM&Aで、専任仲介という手法が採用されているのでしょうか。

シャープがホンハイ精密工業に買収された際も、最後まで日本の産業革新機構と定量的・定性的な条件で激しく条件を競わせました。

その約束の全てが果たされたかどうか、という事後の評価はともかくとして、シャープの買収価額は当初の条件から吊り上がり、既存株主にはセカンドベストな落としどころになったと考えて差し支えないでしょう。

ディールの規模が大きくなり、数億円を越えることが予想される場合には、一般に専任仲介条項をそのまま受け入れることは一旦留保し、別に頼りになる専門家の意見を聞いたほうが間違いないといえます。

 

話を私の会社へと戻します。

当時M&A仲介に参加の意志を示していた大手の1社は、私が不在のうちに早々に、専任仲介条項付きの契約を経営トップと結んでしまう手際の良さを発揮してしまったのです。

本来この手の大きな契約であれば、当社では外部役員を含めた取締役会で承認する流れができていたので、私も完全に油断してしまっていたのが最初の大失敗でした。

結果として、完全に事後承認でこの契約を認めざるを得ない環境になってしまったことから、これだけ大きなディールでありながら、事業売却は非常に厳しいスタートを切ることとなったのです。

 

ここで少し、M&Aの流れをざっと説明しておきましょう。

ケース・バイ・ケースでもあり、仲介業者やディールの規模によって若干の違いはありますが、おおよその流れという意味での説明となります。

 

「専任仲介条項」がある場合、仲介業者が連れてきた会社(売り手、買い手候補)を拒否する事はほとんど考えられず、まずは申し入れに従いNDA(守秘義務)契約など一般に求められる手続きを済ませてから情報を開示します。

そして双方が合意すれば(というより買い手がより興味を持てば)、両社の経営陣もしくはM&A担当者が顔を合わせ、本格的に話を進めていくことに合意。おおよその買収価額(売却価額)で双方の思惑が一致すれば、M&Aの交渉が本格的に始まります。

ただし、この場合も、売り手側は買い手側の提案や仲介業者の助言を一方的に蹴る材料を持ち合わせていないため、あらゆる「意見」を素直に受け入れる事が多いはずです。

 

そしてその後は、DD(デュー・デリジェンス)と呼ばれる、法務上・経理上の会社の状況を精査する作業が弁護士と公認会計士のチームによって行われます。ここで評価額はさらに叩かれ、最終提示額は非常に厳しいものとなるのが一般的です。

しかし、既に資金繰りのデッドラインが見えている売り手にとっては、その提示額を拒否する余裕も交渉できる材料もないため、結果として提示額を受け入れるしかないという現実が待っているのです。

 

そのような基本的な流れと「専任仲介条項」という、非常に厳しい状況。

このような状況の中、当社のM&Aがどのように進んでいったのか。次回の記事でお話しします。

 

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【ストーリー】売却価格を○倍に!! 事業売却(M&A)担当役員の孤軍奮闘記
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第1話 【ストーリー】売却価格を○倍に!! 事業売却(M&A)担当役員の孤軍奮闘記
第2話 当事者としてM&Aを経験してきた私
第3話 売り手側は「足元を見られている」!!
第4話 「専任仲介条項」の落とし穴
第5話 やはり交渉決裂、次の一手は……
第6話 テーブルに乗せるのは「利益水準」だけではない!
第7話 レア感を材料に交渉のカードを切りまくる
第8話 最高の事業売却(M&A)を実現するために疑った2つのこと
第9話 【さいごに】事業売却(M&A)における成功!とは