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【ストーリー】売却価格を○倍に!! 事業売却(M&A)担当役員の孤軍奮闘記 第9話

 

前回までの記事では2.2億円という理不尽な提示から、10億円で会社を売却した体験談をお話しましたが、ここでご紹介したやり方も、すべてにおいて万能とはいえません。

 

まず大前提ですが、この一連のお話は、このケースだからこそ通用した“ここしか無い”という狭い針の一点を通した交渉だったということです。いつでも誰でも、同じ条件で成功できるようなノウハウではないのです。

 

「じゃあどうすればいいの?」と思われるかもしれませんが、私はこの体験談を通して以下のエッセンスを読み取っていただきたかったのです。

・自社の状況を正しく知る

・購入側の本当の目的を見極める

・自社が切れるカードを正しく把握する

この3つです。

 

具体的に説明します。

長年に渡って赤字を出しており、帳簿上も債務超過に近い状態で、固定資産も僅かしか無いような会社があったとします。事業は斜陽産業で、回復の見込みもなくその努力もしないまま、退職金代わりの事業売却をしたいと、経営者は考えています。

 

そんな会社のオーナーが事業の買い手を探そうとしても、それは一般的にムチャというものです。

もちろん、なにかに強みがあり、あるいは無形の資産やノウハウがあれば可能性は0ではありませんが、事業規模が小さく従業員もいない、つまり中小零細企業にありがちな「ノウハウは経営者だけが持っている」というような場合であれば、もはやお手上げになると考えて間違いないでしょう。

 

こんな状態では、「可能であればビットに持ち込もう」などといったセンテンスだけをつまみ食いし、仲介業者に要求をしたら、おそらくその場で担当者は冷たい笑いを浮かべて席を立ってしまうでしょう。

ヘタしたら、本気で怒らせてしまうかもしれません……。

 

強気の交渉は、自社と自分の立ち位置、それに相手の思惑を正確に理解した上でカードを切らないと、言葉を選ばずに言うと「ただの愚か者」となるだけです。

 

次に考えなければならないことは、事業の売却は売り手側にとってはそこがゴールかもしれませんが、買い手にとってはそこが、いうまでもなくスタートだということです。

そのため、「売り逃げ」をするような交渉をしても絶対に良い結果は得られません。

事業の売却は、そこで働く従業員の幸せを願うことが根底になくてはならないことは当然の前提として、これから新たな仲間となる、買い手側従業員の幸せと成功までも願ったものでなければならないのです。

 

つまり、事業の売却を成功させるためには、事業売却後に、買い手側が順調に成長できる未来を真剣に、一緒になって考える必要があるということです。

売却側の会社のオーナーとして或いは役員として、その会社のこと、従業員と事業のことをもっとも熟知しているのは自分(経営者)だけです。

事業売却後に新たな環境でどのようにすれば、買収先の企業とより大きな相乗効果を得て、双方にとって満足度の高いM&Aになったと言える結果を残すことができるのか――その命運は、売り手側の経営トップであり役員にこそかかっているといえます。

 

だからこそ、売り手側は真剣になって買い手の成功と幸せを願う必要があるのです。

その思いが本物であれば、事業や会社の売却価額は自ずから、収まるべき場所に落ちつくはずです。

 

繰り返しになりますが、この一連の記事で拾って頂きたかったエッセンスは決して表面的な交渉術ではなく、何が正しくて、何が必要なのか。その「ものの見方」の一つの方法なのです。

読了して頂いた皆様にとって、一つでもお役に立てる何かが残れば幸いです。

 

終わり

 

【ストーリー】売却価格を○倍に!! 事業売却(M&A)担当役員の孤軍奮闘記
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第1話 【ストーリー】売却価格を○倍に!! 事業売却(M&A)担当役員の孤軍奮闘記
第2話 当事者としてM&Aを経験してきた私
第3話 売り手側は「足元を見られている」!!
第4話 「専任仲介条項」の落とし穴
第5話 やはり交渉決裂、次の一手は……
第6話 テーブルに乗せるのは「利益水準」だけではない!
第7話 レア感を材料に交渉のカードを切りまくる
第8話 最高の事業売却(M&A)を実現するために疑った2つのこと
第9話 【さいごに】事業売却(M&A)における成功!とは